schwarzwelt1986

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『棄てられし者の幻想庭園』第1章・後編

??? 「おはようございます~」 ここに来てからアカネが聞いたどれよりもほんわりした声色を発しつつやって来たその人を、この空間にいた3人は微動だにせず、しかし諸手を挙げたつもりで迎え入れる。 そうして気軽に、知らず混沌空間に足を踏み入れてしまったその来訪者は、またしても黒スーツな小柄女子。しかしながら今までの女性陣のようにばっちり外見がキマッているのではなく、どちらかと言えば服に着られている感が強く肩までの黒髪もぶわっとしていて、言わばお洒落という概念をまだ知らないような純朴っぽい女の子だった。 それが、何故か結構な大きさの段ボール箱を抱えてのほほんと入って来たのだから、状況的にはプラスなのかマイナスなのか3人は判断に困ってしまう。??? 「何だか不思議な空気ですねぇ~」アカネ 「(物怖じゼロ!?)」 パッと見誰でも微妙な空気になっているこの空間を何か不思議で済ませて躊躇せず踏み込んで来たのは、果たして組織と本人どちらが原因なのだろうか。どちらであってもアカネとしては思う所はあるが。コヨミ 「あー、メグミさん?何ですか、その箱?」 コヨミが何故かこっそり冷や汗をかきつつ勇気を持って選択する。他の二人はこれで、行く末を見守るしかなくなった。 その期待と不安を一身に背負っている事に多分気付いていないメグミは、何の気無しによいしょとローテーブルにその箱を置いた。メグミ 「あー、これはですねー」 その説明が始まろうとした時、奥の方から賑やかな足音が舞い戻って来た。シルバ 「我ら、死地より舞い戻ったりッ!」シグレ 「あんた何にもしてなかったじゃんよ……」ミコト 「マスター、ソファに飛び乗ると生地が痛むのでとっとと降りて下さいね」 何だろう、この妙なノリとテンポの心地良さは……。とアカネはそれを見て思ったのだが、それが昭和という時代のズッコケ3人組という前例から脈々と続くものとは知る由も無い。メグミ 「マスター、おはようですー」 そしてそこに変わらぬテンポと伸びる語尾で斬り込んで行くメグミは、やはりこういう人なんだとアカネは知った。やや安心。シルバ 「うむ。何だその箱は?」 メグミ 「お店宛ての荷物~。何だか賑やかで誰もピンポン気付かなかったっぽいので、あたしが受け取りました~。」 へらりと報告するメグミだが、仮に表のお店宛の物なら表に持って行けば良いんじゃない?とアカネはそっと思う。 シルバ 「おおそうか、それはすまなかっ   」 アカネとメグミ以外の全員が、そこで何かに気付いたようにバッと箱を凝視する。しない二人は頭の上で?が踊っている。ミコト 「……誰が、受け取ったと?」メグミ 「あたしが受け取りました~」シグレ 「……持ってきたのも?」メグミ 「あたしが~」イノリ 「……最後に『最期の一葉(ラストリーフ)』を使ったのは?」 コヨミ 「確か……昨日?」メグミ 「あ」 ここでメグミも何かを悟ったようで、場を沈黙が支配する。アカネ 「……開けないんですか?」全員  「わーーーーーーーっ!」 焦れて箱に手を伸ばそうとするアカネを全員が止めつつ、しかし全員が蜘蛛の子を散らすように逃げ惑った。

『棄てられし者の幻想庭園』第1章・前編

 人は目が覚めた時そこが見知らぬ天井であると、脳の覚醒が遅れている事と相まって激しく混乱する。 特に、思考回路が擦り減り過ぎてその年齢より幼い外見よりも更に脳年齢が下がってしまっていそうな、それまで平凡な日々を送って来ていた筈の人間であるならば尚更である。少女  「…………、……んぅ?」 ふわりと柔らかく暖かな何かに包まれている感触を肌で感じつつ、閉じた瞼の隙間から昼白色の光に刺激され目覚めた彼女の目に映ったのは、記憶の引き出しには無い一面の薄黒な壁紙の天井。 その事に、動かない体の駆動は目を閉じてひとまず放棄し、脳は尻上がりだが急速に覚醒状態へ移行し、点でしかなかったこれまでの記憶の情景を線へと並べ直し始める。どこかの玄関、舗装の甘く雑多な植樹のされた夜道、雨露に濡れた階段、漆黒の闇に微かに浮かぶ鈍色の刃、古びた扉を越えた青と七色の光に彩られていた気がする空間……。 そうして二分程かけて、現実的な裏付けは無いが取り敢えず事実としての脳内補完を終えたところで彼女の導き出した次の思考は、少女  「(……ここ、どこ!?)」 そう至った瞬間、彼女はガバッと全力で跳ね起き   たかったのだが、実際はモゾモゾぬるぬると寝起きそのままに起き上がるのが精一杯だった。だって普通の女の子なんだもん。 どうにか腕を支えに岩場の人魚のように上体を起こし切ると、肩の辺りから下へしゅるりと衣擦れの音がした。目を擦って曇りガラスのような視界を叩き直して見ると、ブランケットが一枚落ちている。そしてよくよく見れば、彼女がいるのは座り心地抜群な感じの白い二人掛けソファの上で、ここは広々としてはいるが妙に家具の少ない洋風のリビングのような所だった。??? 「あら、お目覚めですか?」 少し離れた所から艶っぽい静かな女性の声が飛んで来る。 彼女が反応して見ると、そちらにはソファと合わせたっぽい白木のローテーブルを囲んで三人が地べたに座り、茶を啜りつつもこちらに目線を送って来ていた。 一人は今の声の主らしき、黒いパンツスーツ姿で茶髪のポニーテールな女性。正座も凛としていて薄化粧そうながら誰もが美人と称しそうな、美人過ぎる秘書とでも言えそうな人。 もう一人は、彼女から見たらテーブルの向こう側で寝転びながら片肘を立ててこちらを向く痩身の若い男性。同じく黒スーツ姿なのだが、こちらは前ボタンを留めずノーネクタイ。しかし首から上はかなり整えられており、何だかイケメンホストの出勤前みたいな印象を彼女はその男性からは受けた。 そして、最後の一人は。??? 「ふむ。体調に問題は無さそうだね、アカネ君」 恐らく、意識が途切れる寸前まで目の前にいた、あの飄々な銀髪の男性だった。 ……ところで、彼は今誰の名前を呼んだのだろうか? 一応自分の方を見ていたが私そんな名前じゃないし、まさか後ろに誰かいる!?と彼女は思って背後を見るがそこはただの壁。ではと三人の顔を見回してみるも、やはり視線は自分にロックオン。 つまるところ。少女  「……え、私!?」??? 「他に誰がいんだよ」 イケメンホストの出勤前がノータイムで突っ込んで来る。アカネ 「だって、私の名前は   」??? 「その先は口を慎みたまえ、アカネ君!」 これまた身振りは劇的にお口にチャック、しかし発言を封じる強い口調で、銀髪が彼女、アカネを制する。アカネもどこか逆らい難い空気に押されて息を飲みつつ口を一文字に結んでしまった。 そこから、至って日常会話のように銀髪は茶を啜りつつ続ける。銀髪  「昨日言っただろう、もはやキミは今までのキミではないと。ほら、キミの名前の表記もさっきから変わってる」アカネ 「あ、ほんとだ!?」 誰の手回しなのだろう。そして何故分かるのだろう。考えたら負けかも知れない。銀髪  「って私は銀髪かよ!……まいっか。さて、このギルドに入った者は人外のスキルを得る代わりに自らの存在の証、つまりは戸籍を失うんだ。そりゃあもうありとあらゆるデータベースからキミに関する資料は一切合切デリートされている。今までの携帯電話も使えまい。あ、インストールしてたゲームくらいは出来るよ?故に、これまでのキミは既に社会的には存在しないものになっていると言う訳だ。」
アカネ 「え……?」 いきなり始まる長台詞に、アカネは再び理解が遅れてフリーズする。 だがその解凍を待たずして、横の秘書風が台詞を引き継いだ。秘書風 「そしてこれからのあなたを定義するために、ギルドマスターがスキルと共に新しい名前を与えます。これからあなたがこのギルドで生きて行く時の名前が、今マスターが託宣した通り、アカネです。ああ、我々の自己紹介がまだでしたね。私は風ではなく本当に、マスターの秘書を務めておりますミコトと申します。有するスキルは『完全懲悪(イノセント)』です。よろしくお願い致します」ホスト 「あ、俺はシグレ。担当スキルは『読心術(サイコメトリー)』。言っとくがホストじゃねえぞ。ま、よろしく~」 勘の良いそれぞれが自分の紹介を上手く挟むが、アカネの頭には上手く入って来ない。 それでも残りの一人は、やはり流れに乗って舞い踊って来る。銀髪  「そしてこの私が、ギルドマスターのシルバ!!」ミコト 「でも呼び方はマスターで結構ですよ、皆そう呼ぶのですから」 何か続けたそうな感じのシルバをミコトがぴしゃりと制する。それですごすごとシルバも戻るので、傍から見れば何となく力関係も分かりそうな画なのだが。ミコト 「他にもこのギルドの構成員は数名おります。ミッションで出払っていたり表の方にいたりしますが、その内に」アカネ 「ちょっちょっ、ちょっと待ってくださいっ!」
ミコト 「……何でしょう?」 矢継ぎ早に攻めてくるミコトの話を、さすがにアカネはせき止めた。 情報の量もそうだが、質がおかしい。しっかりゆっくり噛み砕かないと、最初の一口で内臓が溶け出しかねなさそうなのだった。 取り敢えず、一番最初に入って来て網に引っ掛かったままのワードから紐解いてみる。
アカネ 「……あの。何ですか、存在しない者って……。」
ミコト 「文字通り。消えた、と言う訳ではない。世界は今のあなたを以前までのあなたと認められない、認めるわけにはいかない。だって違う存在なのだから。死んで、拾われて、人外の存在になったのだから。以前までのあなたをあなたは名乗ることは出来ない、なることは出来ない、そういう事です。」 極めて冷静に、そして真剣に、嘘のない瞳で意味不明な話をミコトはして来る。 だがその中身をそのまま理解するのであれば、そして昨日までの現実の延長であるならば、何と理不尽な話なのだろう。 そして、アカネは今も昔もあまり、人の話を疑わない性格だった。アカネ 「そんなの……」ミコト 「これはあなたが望んだ結果の先の事です。押し付けられたという被害者意識や筋違いな逆恨みなどせず、受け入れて飲み込まなければなりません」アカネ 「……」 ミコトはどうやら、厳格な社会人のようだった。ミコト 「私達と同じように」 そして、冷酷な訳ではないらしい。アカネ 「   」 何をどう理解して、口に出したらいいのか。やはりまだアカネには難しい。 すると、違う所から助け船が入る。シグレ 「ギルドにいるのは、全員不条理に世界に殺された奴だ。それでも生きようとしたがった、生きるべきだと思われた奴がマスターのスキルに救われてここにいる」 チャラい雰囲気など一切纏わず、シグレはアカネに補足する。だが、何故かその口にはいつの間にかうま〇棒チーズ味が。 和ませてくれようとしていたなら大失敗だなぁと後でアカネは思ったものだが(この時シグレはミコトに蹴りを入れられていた)、少なくともこの二人の補足は沈み切りかけたアカネをどうにか上に向かせることには成功する。 勿論不条理に世界に殺されたとか自分と同じとか重た過ぎる説明もあるのだが、アカネの脳的に優先された(処理落ちしないと判断された)ワードがまだあった。アカネ 「スキル……?」 聞いたことがあるような無いような。あったからこそ浮上出来たのかもしれないが。
シルバ 「まあゲームの魔法のようなものだと思っておけばいいさ。それを扱うために、我らは人間ではいられない、ヒトであってはいけない、存在する者と思われてはいけない、そういう流れ」 アカネも人並みに漫画やアニメの知識はあるので「スキル=魔法」の部分は成程と思えたものの、残りはやはり理解し切れない。アカネ 「何故ですか」シルバ 「人の世を乱すから」アカネ 「何のために」シルバ 「人のために」アカネ 「……」 人のために。ヒトであってはいけない。我らは人間ではない? 何かの比喩なのか、はたまた自分が知らないまた何かなのか。答えなど出ようも無い。だってここにはどう見ても人間しかいないし。シルバ 「ま、ギルドは陰ながら世の為人の為、誰に褒められるでも無いけれど誰にもハッキリ知られないものだけれど。その痛みを知っている者達で世界の理不尽と戦う組織だよ」 シルバはサラッと言う。 深刻な細かい事はさて置き、アカネはまず自分のいる環境の解を求めたかった。アカネ 「……正義の味方か何かですか?」シルバ 「正義?そんな御大層なものじゃないよ」 違うのだろうか。一応そうとしか聞こえない最後だったのだが。アカネ 「なら、ボランティアか何かですか」シグレ 「こちらとある筋からきちんと任務に対するご報酬をいただいて生計の大筋が立っている明朗会計な、裏組織でございます」ミコト 「先月は久々に黒字会計でしたね」 違ったらしい。しかし、聞き逃せないワードがあった気がする。 と、シルバから突然三人が立ち上がり。シルバ 「そうっ、我ら陰ながら!」
ミコト 「黒字会計の!」
シグレ 「裏組織っ!」 ローテーブルに集って、
シルバ 「あ、これがほんとの」
3人  「ブラック企業!」

『棄てられし者の幻想庭園』序章

少女  「はぁ……、はぁ……、…………」 息も絶え絶えに、彼女はおぼつかない足元を、徐に上げた視界に映る鉄に縁取られた暗い穴へと進める。 きっと今この時、自分の身よりも隠さねばならない物を懐に抱え込んだまま。 初夏とは言えど、陽の光がまだ世界に満ち足りないこの時間。そしてじっとりとした空気を更に溢れさせる霧のような雨の中では、薄いブラウスにキュロット姿のこの身がもつまいと、切れかけの脳からではなく全身の細胞そのものが電機信号として命じたに違いないと、後に彼女は思う。 きっかけはともかく、ここに至る過程だけはすっぽり抜け落ちているのだから、どれだけ死ぬ気で動いていたのかが分かろうというものだ。 ともあれ彼女はこの時、自分ではどことも知れない混み込みとした都市の路地裏で、まるで待ち構えているかのように開いていた地下への階段を無意識に降りていたのだった。 十数の段を下り切り、疲れから壁に沿わせた左手の感覚に従うまま仄暗い灰一色の地下通路を微速に進む。そうする内に外の光も、纏わり付くように響いていた柔らかな雨音も、自分が鳴らす硬い足音すらも遠ざかり、誰も何も周囲に存在しないような心地になって初めて、彼女は足を止めた。 無明の闇の中で体は休まろうとするも、心臓は感情に沿って徐々に脈を速めて行く。その鼓動は彼女に、ずっと懐に隠し持っていたそれを喉元へと向けさせていた。少女  「…………、ッ!!!」 思考と感情の嵐に揉まれながらも迷い無くその小さな両手で逆手に押し込んだのは、一振りの短剣。貫けば彼女の喉を貫通して余りある銀製の刃にどこか品の良い造りをした黒い柄の。 だがそれは、持ち主の意に反してか従ってか、喉の皮膚に届かずぴたりと寸前で制止させられていた。彼女が幾度息を殺して押し込もうとも、その刃が体内へ進むことは叶わない。 まるで彼女の遺伝子そのものが、彼女が傷付くことを拒絶するように。 やがて内へ溜め込んだベクトルが完全反射され、彼女の腕は喉から弾かれるように遠ざかる。その慣性に抗えないまま、彼女はつんのめって膝から崩れ落ちた。少女  「…………、どうして。何で、私は……」  四つん這いに俯き消え入りそうに呟くと、自然と涙腺が決壊する。駆り立てていた感情が零れ出す。分かっていた現実に押し潰されそうになる。 そうして全身すら溶けてしまいそうになって倒れ込みかけた体を、反射的に支えを求めて虚無の横へと手を伸ばす。少女  「……、え?」 コツン、と違和感。思考が動く前に目線がその手元へ向く。少女  「……扉?」  脳と視界が色を取り戻し、その眼に薄黒い世界を映す。 彼女の眼前には、無機質な灰色の壁に埋め込まれるように存在する木製の扉が鎮座していた。それも明らかに百年以上も経っていそうな古びた材質の、ファンタジー世界にでも出て来そうな。 改めて辺りを見回しぼんやりと記憶を辿って照合してみても、それでもこんなものは今の今までこのコンクリ地下通路には無かった。異物無く続く閉鎖した道に見えたからこそ彼女自身、ここを無明の闇と感じていた面もあった筈なのである。 混乱しながらもゆっくりその扉を見上げれば、そこには鈍色の小さな丸ノブが。 それを見た瞬間彼女の中に何かが生まれたのか、それとも何も無くなったからなのか。気付けば彼女はそれに手を伸ばし、立ち上がっていた。 さっきまでの世界の残滓として右手に貼り付くように短剣を握りながら、残った手でドアノブに手を掛ける。ほんの僅かな逡巡の時間を置きながらも、彼女は為すべき事かのようにその妖しさ全開の扉をそっと押し開けた。  ギィィ、と見た目通りの古めかしい音を立てて開いた扉を抜けると、暗くてよくは見えないものの広い空間に出たように空気で彼女も感じた。 ドアノブからゆっくりと手を放し、探るように一歩ずつ中へと歩を進める。先程までの地下通路とは異なる硬質の感触を足裏で感じつつ暗闇に目を凝らしていると、突如目の前の空間がぼわっと青白く照らされ彼女を怯ませた。??? 「ようこそ、定められた時に導かれし迷える子羊よ。あなたのご依頼を伺いましょう」 明かりの中から、優しくもどこか儀礼めいた女性の声。 見ればそこには、青い灯のランタンを提げた人間が一人。逆光でシルエットしか見えないが、どうやら小柄な女性らしい。少女  「……あ、あの」 まだ上手く状況把握機能が回復していない彼女が掠れ掠れに投げかけると、その女性は少し微笑みを返して彼女の方へ歩み寄って来る。女性  「……6の日6の時6の刻、異常が異常の願いを叶える扉が浮かぶ」 こちらに近付く事で見えて来たちょっとよく分からない事を口走り始めたその女性は、クリーム色のセミロングな髪をツーサイドアップに纏め、不自然なまでに自然な笑顔を浮かべた、これまたファンタジー世界に出て来そうなメイド姿の女の子だった。そしてよくよく見ると、ランタンの中の青白い灯りはLED電球に細工をしたものだったらしい。 そんな意図の分からない出で立ちのメイドさんは、更に彼女に言葉を続ける。メイド 「私達は、その扉を開けた依頼者の願いを何でも聞き届ける存在です」 メイドさんが指し示したのは、今し方彼女がくぐったあの扉。しかし開けっ放しにしていた筈の扉はいつの間にか音も無く固く閉じられていた。メイド 「さあ、ご依頼を」 思考を反らさせまいとするかの如く、慣れた口調でメイドさんは彼女に畳み掛ける。 おかげで彼女も言葉の更新がどんどん上書きになった結果、最後の部分だけをまとめて反芻してしまう。少女  「……願いの、依頼」 その部分を聞き取りメイドさんも僅かに満足気な笑顔になるが、彼女にそれは見えていない。 彼女にとって今は、この非現実的な現実のようなものの濁流をどうにか手の届く範囲で乗り切る事で精いっぱいだったのだから。 そうして、齢19歳の狭量で急速圧迫されきった脳が十数秒の時間を掛けてどうにか絞り出させた回答は、それでも少しだけ強かった。 少女  「…………。私、死にたいんです。生きたくない……、生きてたらいけないんです!」   彼女の願いは、それまで余裕の笑顔を崩さなかった相対するメイドさんの態度に、僅かながら怪訝な色を差し込ませた。メイド 「……それが依頼、ですか?」少女  「……はい」 彼女のどうにも深刻な空気に、「おおっとぉどうしようかねぇこりゃあ」といった風に笑顔ではあるが分かり易く頬を掻いて当惑した様子のメイドさんが黙ってしまったせいで、この空間の空気が奇妙に淀みを見せる。かと言って彼女の方も促されて願いを言ってみたは良いが、そこから何が出来る訳でも当然ある筈が無く。 互いに永遠にも感じたに違いない時間にして数秒の間がいよいよどちらかを発狂させかねなかった時、そこにまるでマイクを通しているかのような大音量で男性の威勢の良い声が突如、襲来した。??? 「よかろう!その依頼、この私が承った! 」 刹那、空間全体が一気に光に塗り潰されんばかりに明転し、これまた大音量で小気味良いテンポの円舞曲が奏でられ始めた。反響に反響を重ね、一瞬にしてこの空間の支配権をそれらが奪い去る。 辛うじて彼女が明暗ギャップによる失明から逃れて捕らえられた視界に映ったのは、実は10m四方くらいあったこの高さ4m程の石造りの部屋で、存分な照明機材と音響機材によってまるでミュージカルの如く彩られながら、空間の中央に位置する円卓の上を彼女と反対側から曲に乗り無駄に華麗に舞いつつ接近して来る一人の人間の姿だった。 なお、メイドさんは良い感じにその導線上からいなくなっている。 見えたとしたってさすがに突然の展開過ぎて思考も肉体も硬直してしまった彼女はその何者かに何一つ対処行動を取ることも出来ず、いよいよ円卓を乗り越えて自身の眼前までその接近を許してしまった。そして為されるがまま、??? 「ばぁん!……よし、これでキミは今死にました」 少女  「…………は?」 額に指で銃を撃つ真似をされる。??? 「じゃ、ここからはキミは私のものだ。精々頑張りたまえよ、可愛い子ちゃん」 その銀髪でスーツベスト姿の男は、言って間近な円卓の席に腰掛けて彼女に相対する。だがその際も何故だか妙に華々しく、そしてちゃっかりさっきのメイドさんがその横に立って。 ともあれ、彼女としてはさすがにそろそろ何が何だかな感じである。

2周目以降のために(ネタバレ注意)

『棄てられし者の幻想庭園』ご覧いただいたお客様、誠にありがとうございました。 おかげ様で初回の幕が上がり、残りのステージを戦い抜くための勢いが付いたのではないかなぁと思っています(頑張るのは役者と他のスタッフなのですけれどw)   だがしかし!ご覧になったお客様の中にはこんなふうに思ったお客様もいる筈でしょう。       ……結局、あれはどういう事だったんだ?     公式にも当たり前のように「何周も見て欲しい!」と言っていたように、今回の作品は1回ドドドっと見ただけでは全てが分かりにくいように作られています(それは舞台作品としてどうなのかという意見もありますが)。しかも本編以外の関係無い所でも役者が存分に遊んでいたり、思わせぶりに出しておきながら特にその後活躍しない物があったり、そもそも名前だけしか出て来ない観客の皆様のご想像にお任せする要素があったりと、メインに焦点が当たっている所だけではこの作品の面白さの全てをお伝え出来ない!! と、思ってしまったのもあり。ならば、既に2周目を決めて頂いているお客様のためにも、どうしようかと考えている方に見ていただくためにも、2周目以降を存分にお楽しみいただくためにこちらから補完できる要素をピックアップしてお伝えしてしまおうという、おいおいだったら最初から本編に入れろよというツッコミが来そうな事をやり始めます!(笑) 一応、一度見て頂いた方向けのお話なのでここからはネタバレ前提で進行して行きます。まだ見てないけど初めから全力で分析したいぜ!というチャレンジャーなお客様は、自己責任でお進みくださいませw          まず初めに、ヒロイン・アカネについての解説から。 やはり一番難しいのは、スキル『精霊の盾』と『闇の業』に関してでしょう。『精霊の盾』は「あらゆる攻撃を弾き返す不可視のオーラを纏う」、という事で。普通にかつ極端に考えると、本来誰も触れることが出来ないんじゃないの?となりそうですが、そこはどっこい。攻撃の判断基準は、「味方ではない」人からの「接触」とアカネの脳が自意識下で判定した事、が基本になります。なので、まだギルドに馴染んでおらず能力に関しても不明で不安だった最初の内は、イノリに触れられることを恐れてしまったので弾き返してしまったし、ソナタに関しては色々知った後で自分も正式にギルド入りした自覚を得て、なおかつギルドのメンバーでありスキルの説明もされた事により無意識に警戒が解けたために触れられても戯れと判断して発動しなかった。という事ですね。ああ実に都合の良い話です。ちなみに、寝ていたり意識を失った後に関しては、その時の環境により発動の度合いが異なる仕様です。コヨミと寝ていた時は屋外ですが最初から抱き締められていたので、寝ていても触れられているものが敵ではないと感じられるため発動しませんでした(多分一度でも離れると危険かもしれません)。また冒頭では、まだ能力に目覚めていません(シルバの言った能力覚醒の話はブラフです)。 そして『闇の業』覚醒後では、『精霊の盾』を使ってアカネは攻撃をします。シルバがぼそっと言う「防御を攻撃に使う」とは、「絶対防御」≒「絶対攻撃力」という「矛盾」の言葉の成り立ちに基づく理屈で、「全てを弾くオーラは、全てを壊すオーラにもなる」という事を端的に述べたものです。なのでアカネは『精霊の盾』を『闇の業』の破壊思考の基で「触れた物の細胞を破壊・融解させるオーラを纏う」と解釈して使ったわけです。何事も捉え方次第です。「ハンター×ハンター」の念能力の『纏』と『錬』と思うのが一番分かり易いですね。『闇の業』に覚醒した事で、『精霊の盾』の強弱もある程度コントロール出来るようになっています。ただし、『闇の業』はスキルではないので『精霊の盾』の能力そのものは変えられていません。味方と思ってしまったら発動しなくなってしまいます。ギルドで戯れておいて良かったね、と最後になるという話です。 ちなみに。アカネさんのご家庭は本当に一見普通の母子家庭です。金銭的にも不便は無く(ただし過度に裕福にはならないように調整されています)、市営アパートに二人暮らしです。アカネ自身は元は明るめな性格で、『闇の業』が無ければ恐らくギルドでも早々に馴染めた筈です。ただ、母親が事件のせいで多少ビビりになってしまったせいもあり、割と世間知らずで甘やかされている傾向があります。20歳の割に子供っぽいのはその辺の影響です。   では、一番面倒な物の解説も済んだので、シーンごとの見どころもピックアップして行きましょう。合わせて、シーンごとの日時の解説もして行きます。意外と分かりにくいと思うので。 <OP・回想シーン>本編より7年前の10月頃シルバとハヤト以外は、皆神様です。周りの神様は人間の事故なんかに見向きもしませんが、奥から現れる神様だけが興味を持って気紛れで助けてくれます。この神様は最後に出てくる神様ですが、特定の姿を持ちません。多くの人と話すときは実体化するのが疲れるので誰かの体を借りたりします。 <1章・ギルド地下>6月6日金曜日、6時6分前後実は6が4つも揃ったタイミングです。本当は3つが望ましいのでギルドは毎月6日6時6分に願いの扉を解放しています。ここの見どころはやはり、エア壁ドンです(笑)まさかの女子を使って女子を壁ドンするという新たな文化を作ったマスターはとんでもない男です。この時のイノリさんの微妙な顔に注目です(笑顔ですけど)。 <2章・ギルドリビング>6月7日土曜日、日中ひたすらトレーニングするシグレ君に注目してみて下さい。彼はとことん地味にいい仕事をしています(笑)そして、イノリさんにも注目です。彼女もいい性格していますw <3章・天命教本部大ホール>6月7日土曜日、午後イシキさん唯一にして最大の見せ場です。全部持って行きます。動きも顔も素晴らしいですwが、そんな中で、ダイジェストの際の写真に写る皆さんには注目です。5人5様の顔をしています。 <4章・ギルドリビング>6月8日日曜日、午前(座組内呼称)店長こと、ぬいぐるみが大活躍します。2章でもそれなりの存在感でしたが、ここでは大活躍です。普段は表のカフェでマスコットをしているのですが、よくマスターが枕にします。ソナタにこき使われるイノリとフタバは、地味にソナタとハヤトの戦闘中格ゲーをしています。どっちがどっちを操作しているんでしょうかwハヤトとアカネのボケ合戦は、恐らく毎回違います。やってる本人たちが一番冷や冷やもんでしょうかね(笑)シルバと戦っている時のハヤトは、それとは違って活き活きとしています。実はあそこは書庫なので本来は大迷惑なのですが、お互いの戯れのルールで「一撃入れたら終わり」という風に決めているのでいつもそこまでの被害にはならないようです。 <5章・街中>6月8日日曜日、午後~夕方舞台下手にある謎のオブジェは、本当に用途が謎のオブジェです。大きな公園とかにたまにある、どう遊んでいいのか分からない神秘芸術です。きっと自由に組み替えて遊ぶための知育遊具なのではないでしょうか(笑)ちなみにソナタ達とアカネ達のいる場所は似て非なる公園です。ここの市役所は同じような物ばかり作って、公園の価値を何だと思っているのでしょう。そして、帰る時のシグレのノリツッコミもここは毎回違うようです。それに対する返しにも注目しましょう。滑ったらきっとソナタさんが困った顔をしますw <6章・ギルド内各所>6月12日木曜日、日中信託の間は、冒頭でアカネが来た所です。元々は円卓の間と言う名前だったのですが変わりました(メンバーの座り方に多少名残があります)。 <7章・廊下~信託の間>6月12日木曜日、深夜~13日金曜日早朝とにかく、アカネ戦での戦っていないメンバーの挙動に注目です。特に、アカネVSミコトの際は、周りが大変なことになっていますwそして、神様(トーコさん)の羽は、決して凝視してはいけません(笑) <ED・ギルドリビング>6月14日土曜日、午前最後の最後、全員のツッコミの仕方にマスターへの信頼度と言うか、それぞれの性格が出ますw    大分ざっくりでしたが、舞台版の解説はこんな所だと思われます。 これ以上は本当に裏設定がバンバン関係して来てしまうので、公式サイトで少しずつ刊行予定のノベライズ版で明らかになる、かもしれません。そちらでは舞台版では語られなかったエピソードも出て来ます。でも、舞台版でしか存在しない設定もあったりしますので、ノベライズだけ見ればいーじゃん!とはなりませんからご安心をw  強くてコンティニューの皆様に、この記事が少しでも強さの足しになればと思います。      あ、一番大事な事ですが。 半券を忘れるとリピート割が効きませんのでご注意を(忘れてもどーにかなるかもしれませんが、あった方がみんな幸せです)。