『棄てられし者の幻想庭園』第2章・前編

??? 「さて、我々人類は誠に愚かな存在である!」

 都内某所、一等地に立つとある施設の大ホール。

 そこの中央で一人スポットライトを浴びて、背の高い質の良い紺のスーツに身を包んだ男が野太い声で、何かそんな事を口走っていた。

野太男 「他者の脚を引きずり合い、利権を求めるだけ求め、欲望のままに共に喰らう。知能や言葉をなまじ備えてしまったがために獣よりも獣じみた醜い存在になり果ててしまった。じ、つ、に、嘆かわしい!そうは思いませんか!?」

 数百名で座席が埋まっている会場に歓声と拍手が上がる。座席にいる人々もどこかスピーチをしている男と似た意識高い系な外見の人間が男女問わず多い。

 そんなそれまでの公演で適度に温まっていた会場の盛り上がりに後押しされ、男は更に熱弁を振るい続ける。

野太男 「最早人類は、人類同士だけで生き残ることなど出来ない。脳の容量の足りない俗物な政治家も、世の最高学府を出た石頭の研究者も、人の良いお隣のご老人も、勝手に人の道を外れて徒党を組む自称アウトロー共も、我々を守ってはくれない、より良い存在へと導くことなど出来はしない!ここに集った同志の皆さまはそれをこれまでの人生で嫌という程味わって来た筈でしょう。人類の闇を目の当たりにし何度もこの胸と身を引き裂かれ、それでも僅かな光と可能性に縋ってこの世を生き抜いて来た我々が、それに見合った救いをこの世で得られないのは何故か!それは人類が愚かな同類に管理支配されているからに他ならない!だからこそ我々天命教は、今ここに新たな人類の指導者を、我らの間違いを正す人の理を超越する者の降臨を迎えようとしているのです! 」

 言葉尻で男がステージ中央の奥をバッと煽り示すと、それに合わせて方々からスポットライトが当てられ、2m程の十字型をした灰色のオブジェが姿を現した。

 同時に、会場の盛り上がりはさらに熱を帯びる。

野太男 「人の世で活躍する同志の諸君の協力により、我々は複雑で難解なこの女神降臨の儀式を行う準備を整える事が出来ました。今やこの棺の中で眠る自ら器となる事を望んだ者の肉体に女神の降臨を待つのみ、人類の新次元への扉はすぐそこまで来ています!」

 十字架の碑を模した棺の前で、男は会場の熱を一身に浴びる。

野太男 「しかし、忘れてはなりません。我らは女神を搾取するのではない、共に豊穣の未来を創り上げるのだと。祈りを忘れ怒りを買い見放された過去の愚物共とは違う、共に有り正し合う事で、我らも女神も崩れることの無い幸福の輪廻へと向かうのだと!これこそ、天命教の目指す人類の天蓋領域への第一歩である!」

 人々の歓声がスタンディングオベーションで最高潮に達する。傍から見れば法案が成立した国会中継のように思えるかもしれない。

 しかしこうしてみると、これまで彼らがどれだけ抑圧されて来たのかが肌から伝わってきそうだった。そしてそれがもうじき終わると、その瞬間が目に見えて来るとなれば、自然と沸き上がろうというのも十分理解出来る。

 だが更に団結と意識を高めるべく、男もひたすらに声を上げ続けた。

野太男 「さあ奏でましょう、天蓋へと響く祈りの謳を。新世界への旅路に思いを馳せる希望の旋律を!我らの紡ぐ言の葉が女神を誘う道標となり、輝かしい未来への軌跡と   

??? 「ハァーーーーーーーッハッハッハーーーーーーーーーーー!!」

野太男 「!!??」

 言葉通り、皆が天を仰いで何かの降臨を迎えようとしていた時に、数百の歓声をも押し潰す何者かの高笑いが会場中に響き渡った。

 明らかな異分子に会場中が戸惑ってそれまでの盛り上がりが一瞬で鎮静化し、ステージ上の男も遺憾そうに辺りを見回す。

 

 さて。オペレーション、スタート。

シルバ 「ギールーガーメー……破ぁーーーーーーっ!! 」

 仰ごうとしていた天、と言うか天井。ちょうどあの十字の棺がある場所の直上。

 照明機材を釣り下ろす足場、通称・キャットウォークから気合の入った何かの掛け声と共に、アイ、キャン、フラーイ!で銀色の奴がステージ上に飛来して来た。

 足元にあった何かを、バッキャァァーーーーン!と着地の脚で木っ端微塵に粉砕しつつ。

会場  「……………………」

 それはもう見事に綺麗な縦割りでありまして。その場にいる誰もが魅入られて言葉を無くしてしまう程。

アカネ 「……成程、こんな感じだったんだなぁさっきの私」

 じゃないのは、舞台袖からこっそり見守っていたアカネでさえ理解していた。

 そうして、ステージ上の男二人が沈黙し切った世界で目が合ったところで、

二人  「「おぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」」

 双方喜びと絶望の正反対な意味での絶叫と共に、真のステージが幕を開ける運びとなります。

シルバ 「はいはーい、おっ疲れ様でしたぁ~っ。緞帳クローズプリーズ!」

 人々がどよめくよりも先にシルバがステージ中央に躍り出て、無駄に指を鳴らして指示を出す。それでもちゃんと緞帳が勢い良く下りるのだから、今PA室にいる人は余程柔軟なスタッフさんなんだなぁと、ミコトとシグレの後に続いてステージに出て来たアカネは思ったのだった。

 ちなみに、シルバが高さ6m程から棺を破壊しつつ無傷で着地した事にはそれほど疑問は持っていない。きっと何か特別な仕組みがあるんだろうと雑に脳内処理しておいているのである。

 そう思っている内に早々に緞帳が降りきり客席とステージが完全に仕切られたところで、ようやく呆気に取られまくって身動き出来ずにいた男が我を取り戻した。

野太男 「けっ、警備   

ミコト 「警備の方々でしたら、ウチの優秀なエージェントがお相手しております」

 と思ったら、今度はミコトに遮られる。

シルバ 「きっと幸せ絶頂だと思うよ、あれ相手なら? 」

 あれって何なのだろうとアカネが首を傾げていると、軽くだが背中を押されて押し出される感覚がした。何事かと振り返ると、

シグレ 「マスター、これここに置いとけばいいっすか?」

シルバ 「イエスウィーアー」

 良い大人達が自分の背後に勢揃い。

アカネ 「早速盾扱いですかそうですかありがとう殴りたい」

シルバ 「照れ屋さんだなぁ、アカネちゃんは。そんなに可愛いとシグレの顔が真っ赤になっちゃうじゃないか」

シグレ 「それは嬉しさではなく物理的な鬱血では」

ミコト 「私は面倒見ませんよ?」

野太男 「ゴホンッ!」

 内輪で危うく盛り上がりそうになるところを、わざとらしい低音の咳払いが遮った。おっとそうだったぜと言う感じに4人がそちらを見れば、一瞬見た時は大いに狼狽していた気がしたあの男が大層優しい表情をしつつ後ろ手にアカネ達を見ていた。

 何だろう、ちょっと気持ち悪い。

野太男 「神聖な女神の御前の場を乱す者達よ!このような所業、我らが女神の怒りが下る事は最早明白であるが、敬虔な使徒であるこの第一位階のイシキが、そなたらの罪の弁明を聞き許しを乞うてしんぜよう。そなたらは何者で、何故この聖域に踏み込んで来たか?」

 イシキと名乗ったその男は先程公演していた時よりは穏やかに、しかしどこか圧を持って。さながら中世の教会の神父のように問い質して来る。

 が、ちょっとアカネにはこのイシキさんが使う言葉が難しくてよく分かんない感が強い。まだ何となく意味合いは分かるのだが、何故一行で済みそうなことをわざわざ三行くらいかけて言うのかの方が理解に苦しむのである。

 ただ、この人達はそうでもないようで。

シルバ 「……。どーもどーも、「突撃☆隣の宗教団体様!」です!」

 何だかどこかで見た事あるようなポーズを三人でまた取りながら、イシキに対抗し始めていた。主にテンション的な方向で。

 でもやり切ったら逐一隠れて、やっぱりアカネが矢面のまま。

アカネ 「だからっ……!」

シルバ 「今日は、今何かと話題の天命教の幹部の方にお話を伺いたく思いまして~」

イシキ 「……この少女は?」

 そりゃ気になりますよね~。

ミコト 「新人教育の一環です、お気になさらず」

 いくらミコトが真顔で言ってもそれで気にしない訳無いじゃんとアカネは思ったが、

イシキ 「……取材は広報の方に話を通して」

 まさかのイシキはそれで呆れた溜息と共にこの話題は横に置いておいてくれた。さすが天命教とやらをまとめるポジションっぽいの第一位階とかにいらっしゃる人である、理解のある人なのかもしれない。

シルバ 「それじゃ突撃の意味ねーじゃねーか馬鹿かよ☆」

イシキ 「なっ!」

 が、そんな恩を人の後ろから仇で返すのがここの人達の流儀っぽい。

 しかしともあれ、ここから何かが始まった。

シグレ 「まず聞くんすけどぉ、文字通り突撃☆されて、女神の棺破壊された割には落ち着いてますよね~?」

ミコト 「裏で聞いていた所、この中に女神の依り代となる女性がいるという事でしたが、その女性は一体今どこにいらっしゃるのでしょう?」

シルバ 「そもそも……その女性は本当に望んで器になったんですかねぇ?」

イシキ 「……何を言っているのかね?」

 本当に、何を言っているのだろう。アカネも全く分からない。

 横では破壊された棺の残骸にシグレが片膝立てて何やら目を閉じて触れていて、その様子をミコトが真剣な眼差しで見守っている。これも何かのスキルなのだろうか。

 シグレのスキルがどんなものだったか、アカネには聞き覚えが無かったが。

シルバ 「いえいえ、その筋の情報によるとぉ。その器の女性はあなたが直々に言葉巧みにここまで誘導し、首を絞めて殺害、そしてその遺体を利用しているという話なんですよぉ。しかもそもそも信者ですらない一般女性だと!」

イシキ 「……ふぅ、何の証拠も示さずそのような事を」

シルバ 「証拠は現在進行形で探してお   、っとぉ、ナイスタイミング」

 シルバが自分のスマートフォンを取り出しあれこれ操作を始める。曇りない表情で納得している様子を見る限り、悪い知らせが届いた訳では無いらしい。そう言えばコヨミが何か調べ物をしているとか言っていた気がするがそれだろうか。

 アカネも流石に気になってちょっとのぞき込もうとしたが、シルバはアカネの手の届かない所までわざとらしく持ち上げやがって見せてくれなかった。この時ばかりはアカネも自分の低身長が憎らしい。

 が、アカネ以上に訝しげなのはイシキの方なのは間違い無く。

イシキ 「我々天命教に何か疑惑でもお持ちなのかね?ならば申し訳無いが無駄足を踏ませてしまった事を謝罪しなければならなくなるが……」

シルバ 「ああ、それはお気になさらず~。シグレ、どうだ?」

 シルバも操作を止めシグレの傍へ行く。さすがに自分一人残されて見知らぬ中年とお見合いしたままというのも気まずい事この上ないのでアカネも随伴。

 シグレはまだ目を閉じたまま棺に手を当て集中していたが、

シグレ 「……は~ん、成程。わざわざこれと同じのを用意するとか律儀なもんだねぇ。しかもいいとこに立て掛けてくれちゃって、ご苦労さんでした」

ミコト 「場所は見えているんですか?」

 今シグレは何を見ているのだろう、目を閉じて。

シグレ 「まーちょっと待てや姐さん。……移動中は上向いちゃってて分かりにくかったんだが、少なくとも殺害場所はここじゃねえ、もうそれは済んじまってる」

ミコト 「被害者は今この施設内のどこかで、これと同じ棺に入れられている?」

 何やら刑事ドラマの様相を呈して来たのだが、誰もちゃんと説明してくれない。アカネも徐々にこれが何の事件なのかそもそも事件ですらあるのかないのかが分からなくなって来た。正に現場に立ちながらもうそれこそテレビで見ている感が凄まじく、どこか緊張もしなくなって来る。ただそれはこの人達のノリのせいかもしれないけれど。

シグレ 「だな。おー何か仰々しいな~、暗い部屋に暗い連中に。っ、これは……!」

 シグレの表情が急にシリアスになったので3人の注目と期待が集まるが、

シグレ 「……ここの連中、パイオツの揉み方がテクニシャン!……痛だっ!!?」

 ミコトのトーキックが、シグレの尻穴ら辺を抉り上げていた。うわぉ、テクニシャン。

シグレ 「……銀色の扉の部屋デス。窓が無いから多分地下」

 蹴られた勢いで顔面から床に突っ込んだまま悶えるシグレ。ちょっと今はボケちゃいけなかったらしい。あと押さえてはいるけど尻がビクンビクンしている様が、アカネの乙女な眼からしてみたらキモチ悪かった。

ミコト 「向かいます」

 被害者は無視して、情報はきちんと得たのでシリアスに進めようとするミコト。流石なのか何なのか。

シルバ 「救出を最優先、イノリにも連絡を」

ミコト 「了解」

 まるで本当に刑事ドラマみたいなやり取りをしてミコトは舞台袖から駆け出て行った。

 アカネもそれを見送ったのは良いが、ここからどうしたらいいのだろうと次の現象を待っていると、ポンと頭の上にシルバから手を置かれた。

 特にそこから何も言わないが表情からしてこっちに付いて来いと言う感じで、それに従うと身長差もあって顔を見上げる形になるため下で悶えている人は視界に入らなくなっていた。おお、何と言う気配り。

シルバ 「そーだ肝心な事を聞き忘れておりましたぁ!女神の器に選んだその女性の選抜理由をここで一つお聞かせ願えればなーと思ったりなんかしちゃったりなんかして」

 ちょっと感心したら、先程までのシリアスはどこへやら。振り向きざまにまたこんなノリでエアマイクを向けちゃっている。

 アカネはやっぱりこの人が良く分からない。大人ってこんなもんなんだろうか。

 しかし、こっちの大人は本当に大人なようで。

イシキ 「……そんなもの。常日頃女神の存在を強く信じ、その身に女神を下ろすにふさわしい在り様を日々努力している様に私は運命を感じたのですよ。彼女こそ100万……いえ、1億に1人の逸材でした」

 本当に記者会見か何かをしているかのような対応である。もしかすると自分もこのノリに乗らなければならないのだろうか。

シルバ 「ほほう、どテキトーではなく!?」

イシキ 「まさか!我らが女神を信仰する者達にのみ備わるシンパシーとでも言うのでしょうか。未来という果てし無き広大な砂漠の中を彷徨う中で大いなる運命の大河により導かれるが如く惹き合い、そしてそれが淀み無く全てを煌々たる事象へと駆動させる歯車であるという感応であったのです!」

シルバ 「それはそれは!さすがは天命教の教祖様、見事な慧眼であらせられる!」

イシキ 「いやいや!」

アカネ 「つまりは?」

イシキ 「自称女神の頭も外見も痛々しい社会の負け組クソニートの中二病患者なんざ一人消えたところで誰も困りゃしねえむしろ有効活用だ感謝しやがれ☆」

 

 間。

 からの、

イシキ 「                       !!」

 大の大人が壮絶な悶絶。

 やっぱりどういう事を言いたいのか言葉が難しすぎてよく分からなかったので、本当にノリに乗って軽くアカネも聞いてみただけだったのだが……。

 何だろう、この聞いた方がドン引きするくらいのこの状況は。

シルバ 「キミのスキルは問いかけると建前すらも無効化するのかねぇ?」

アカネ 「そうなんですか?」

シグレ 「いやただ馬鹿なだけだろ」

 声からしてこっちは悶絶から復活して来たらしい人からの冷静なツッコミが。

イシキ 「い、今のは違う。私の中に潜む邪悪な何かが勝手なふるまいを   

三人  「じゃああんたじゃん!」

 理屈からしたらそうならない?中の人って事だし。

イシキ 「くっ……」

シルバ 「もういいよ、一度出ちゃったもんは。曝け出してこ、ね?」

 もの凄~~~~く気遣いと言うか憐みの視線でそう言われたイシキはしばらく俯いて黙っていたが、

イシキ 「…………。ハッ、そうだな。愚民にこれ以上労力を割くのも自らに、そして我らが女神に不誠実というものだ。貴様らにとっては使徒の私と言葉を交わすだけでも極上の褒美であろう?さあ、称えよ!この世界に寄生するウジ虫共が!!」

三人  「出し過ぎだよ!」

 声もドス効き始めちゃっている。意識高い系っぽい見た目の中年の神父さん的人がいきなりのラスボス化だし、そりゃツッコミたくもなるだろう。

イシキ 「私の築き上げた聖域で好き勝手言いおってからに。貴様らのようなゴミ虫など現し世の煉獄の底へと突き落としてくれよう。そこで長年の研究により完成した我らの新次元への羽ばたきの儀式を地に伏せって崇めるが良いわ!」

アカネ 「……何て?」

シルバ 「警察に突き出してやるってさ、意外と庶民派やねぇ」

 解説が早かった。さすが。そしてそういう変換をするのかとアカネはちょっと感心すらしていた。

 だがここから、現場の空気から緩みが少しずつ抜けて行く。

シルバ 「まあ最終的にそうなるのはあちらさんだ。拉致に殺人、いや未遂か。それに信者からの出資金詐欺もあるだろう。どーせ彼らの事も財布としか思ってないんでしょ」

イシキ 「愚か者め。信者は儀式の完遂、そしてこれからの新世界を動かす、この私が選び抜いた女神の寵愛を受けるに値する清き魂の者達だ」

シルバ 「国語辞典で清いの意味を調べる事を勧めるよ。まあいいや、私達が気に喰わないのは別にそこじゃない」

イシキ 「ほう。では一体我らのどこに、高みを目指してこれまで血反吐を吐き続けやっと願いが成就しようという我らのどこに!問題があるというのかね?」

  目を血走らせながらも、迷い無くそう突き付けて来るイシキ。多分この男はこちらがある程度自分の事を下調べをしていると理解しているんだと雰囲気で分かる。

 そして、自分の行いが絶対的に正しいと確信している。それ故の自信溢れるこの態度なのだろう。

 それに対してこのマスターは真正面から挑戦的に、しかし今までとはどこか違う攻撃的な色を瞳に込めて相対する。

シルバ 「腹が減ってんなら自分達の肉でも食ってろよ。無関係の奴を勝手にゴミ扱いした挙句それを食い散らかすとか、その時点でゴミ以下だぜ」

 その文章の正確な所はアカネの中ですぐには理解出来なかったものの、静かに響く声がこの空間の空気を毟っている事だけは肩越しでもひしひしと感じ取れた。

 それを直接向けられているこの男はどう思っているのか。しばし図るように睨み合って、

イシキ 「……ふん、やはり貴様らに新人類になる資格は無いな。人類の進化には傷を舐め合うだけの負け犬など不要だ。それこそ、我らに使われるだけでも本望であろう?」

シグレ 「マジで何様だこいつ」

シルバ 「弱肉強食とでも言いたいのかい?だがキミがそれを誇るには感謝も傷みも知らなすぎる。敗者無くして勝者無く、そして死は全ての生命に平等だ。自分達の事しか見ず愛さず他者を軽んじるキミには、人を導く資格も上に立つ資格も無いよ」

 この場のやり取りが、アカネにも僅かに重く纏わり付く。こんな事を、これまで一度でも目を向けて、考えた事があっただろうか。

 どれだけ自分は、のうのうと生かされて来ていたのだろうか。

イシキ 「下賤の身が定めた資格などこの私には通用せんわ。……さて、時間稼ぎは十分させてもらった」

三人  「っ!?」

 あれ、また空気が変わった感?

 アカネはともかく、これだけで慣れている奴らはどういう事か分かっているのか。シルバとシグレのメンズコンビは再びアカネの背後へと速やかに移動する。何かそれっぽく周囲を警戒している風に立ち振る舞っちゃいるが、大人の男が揃いも揃って未成年女子の陰に隠れているわけで。

 アカネはもう何も言わない。言わないけど……、ねぇ?

 その辺の事情を知らないであろうイシキはこちら側のそんな動きに特にツッコミを入れるようなことはせず、堂々と悪人面で大仰に手を広げ見下して来た。

イシキ 「ハハッ、警備があれだけだと思うなよ。鼠狩りに鷹の群れを使わせたのは褒めてやるがここまでだ、冥途の土産に絶望と言う名の圧倒的な力の差を味わうが良い! 」

 

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